犬だワン・健康クラブ

犬の読み物 > 「安楽死」 ( みい さん、ありがとうございました)


私が自分の犬としてはじめて飼ったのが「ルリ」だった
父親の仕事仲間の人の犬が子犬を産んだ
その中の一匹だった
雌犬の、茶色っぽく、中型の一般的な雑種
昔は、どこかで子犬が生まれて、貰うという形が一般的だった。
だから、生まれても貰い手を探すのにそんなに神経質にならなかったように思う
私が小学一年生の時にルリは家族になった
典型的な日本の昔の田舎の飼い方で、庭に鎖でつなぎ、残飯をあげていた
避妊手術という言葉すらあまり聞かなく、飼い主が夜になると雄犬を離すと言うのも
日常茶飯事だった
ワクチンなんて何?
と言う感じで、狂犬病注射のみ
それでも、調子が悪いと動物病院に連れて行ってくれていたので、
私の親はまだ良い 方だったと思う。

小学4年頃には犬が増えたこともあり(ルリが産んだのではない)ドックフードも登場 する
子供時代から、思春期と長い間、共に同じ時間を過ごした犬だった
私も、成長と共に生活リズムも異なってきて、今振り返ると、
ルリには十分なことを してあげていない
母親に、 「早く餌あげてきなさい。早く散歩行って来なさい。」
と何度となく言われていた。
友達と遊んでいて面倒だと思ったことやテレビに夢中になり忘れていたことも少なく なかった
そんな私だったけど、「ルリ」はいつもやさしい眼差しで私を見つめていた。
私が誕生してとても可愛がってくれた人に、同居していたばあちゃんが居る
とても苦労をしてきた人だったが、まっすぐで、頑張りやで、頑固で筋の通った人 だった
私が3才の時に食道癌で亡くなったが、「ルリ」は、ばあちゃんの生まれ変わりでは ないかと大人になって思った
普通の犬とは明からに違っていた
いつも私を見守ってくれていて、泣いている時はそっと傍で慰め
相談事には、じっと耳を傾けた
同じ空を田んぼに転がりながら見たし、愚痴も聞いてくれた
小さかった私は「ルリ」に甘えていた。

長女だった私は上に兄弟が居ない
あるときは姉であり、祖母であり、母である犬の「ルリ」
私は、何度も癒された

そんな「ルリ」との時間も私が高校2年生の時に終止符を打とうとしていた。

肺炎になり状態が悪くなった
家の中でずっとそばに居ることができる時間だった
初めは「ルリ」一匹からスタートした犬だが、次々増えて、
いつの間にか私は「ル リ」を思う時間が少なくなり
何匹かの一匹になっていた
その中でも、わがままを言わない、控えめで扱いやすい「ルリ」は影の薄い存在と なっていた
こんなに沢山の思いやりをくれて、私が居てほしいときにはいつも傍に居てくれた
「ルリ」がどんなに大切だったか
最後を迎えるようになってやっと気がついたばかな私だった
最後の時間は「ルリ」は今までに見せなかった私の赤ちゃんになり、私に驚くほど甘 えてきた
あまりわがままを言ったり甘えなかったのは、けしてそんな性格だったわけではな く、
我慢させていただけだったのだ
どんなに後悔しても過去は取り戻せない
私の赤ちゃんを大切に抱いた
奇跡的に肺炎が治った次の日
明らかに状態が今までと違う
夜だったが慌てて、主治医の獣医に電話した
電話口の先生は
「あっそれはジステンバーですね。そこの地域で流行っているのです。」
と見ても居ないのに言い切った
私は、見て欲しいと頼み込んだ
「連れてきなさい」
ちょっと嫌そうだったが、見てくれることとなった
車で5分の距離のところだ
すぐ到着し、もう歩くことも出来ない「ルリ」をバスタオルで包み抱きかかえ見ても らった
少し見ただけだった
私と「ルリ」は待合室で待つようにと出された
中では、両親と先生とが話している
その話を聞かれたくないのか私を外に出したが、診察室と待合室は隣同士で、
ドア以 外はガラス張り
受付が治療室にあるから、ガラスの下はすいていてお薬とか中から渡される
つまり、話し声は聞こえるわけだ
「もう駄目でしょう。安楽死させるのがいいと思います。」
と獣医が両親に言った。
両親も納得しているようにうなずきながら
「しかし、今日のところは連れて帰ります。」
と答えた。
3人の目で私のことを言っているのだと分かった
私はそのやり取りを聞きながら「ルリ」に
「絶対に殺させたりしないからね。大丈夫、私が守ってあげるから」
とぎゅっと抱きしめながら耳打ちした。
私に聞こえていることも知らず、両親は話すタイミングを探っていた
獣医も両親も問題は私の意思だけだと分かっていたからだ
「絶対に安楽死はさせない。」
私は泣きながら言い切った
両親は苦しませるのはかわいそうだと言ってきたけど、
私が聞き入れれない状態なの を知り何も言わなくなった
一晩中苦しむ「ルリ」の傍に居ながら、何もしてあげることはなかった
なでてあげるだけしか私にはなかった
獣医でもなく、知識もない私に何も無かった・・・・
口から泡を吹きながら、痙攣をしながら一晩中苦しそうな「ルリ」を見て
日の出の時間には
「安楽死を」
私の心は変わっていた。
私のエゴで、「ルリ」をこのまま苦しませるのはかわいそうだと思った
安楽死を拒絶するだけの力が私には残っていないほど「ルリ」は苦しんだ
朝になり、抱っこした「ルリ」が何故か穏やかな顔になった
私は一瞬、回復したのかと思った
その後1分もしないうちに、静かに息を引き取った
最後の最後まで私は「ルリ」に気を使わせてしまった
私が決断した安楽死を実行していたら・・・
今もその心の傷は私に残りつづけているだろう
その選択は正しいと分かっていても、後悔は私を覆い包み苦悩の日々だっただろうと 思う
自分の手の中で自ら愛犬の命を絶つ
そんなことが私に耐えられるのだろうか?
「ルリ」はその前に息を引き取った
私が耐えられないと気を使い。

人生において、犬が居なかった時期は無い私だか
今だ、私は安楽死を経験したことが無い
「ルリ」の暖かさがいつまでも腕の中に残った
最後に「ルリ」は私の膝の上に十円玉ほどのおしっこを残して私を置いていってし まった


BACK   TOP   NEXT

犬だワン・健康クラブ